色によって日射吸収率が変わります。
例えば4色プリントの場合、
インク1色で表現できる色であれば、
その日射吸収率は基材+20%で収まりますが、
インク2色で表現する色では
その日射吸収率が、+35%になる可能性があります。
インクジェットプリンターは、3種のインク+黒の組み合わせ
4色型インクジェットプリンターの場合、シアン / マゼンダ / イエローの3色の染料インクと黒の顔料インクの4種類のインクの量の調整と組み合わせで様々な色を再現することができます。例えば、シアンとマゼンダを同量ずつ組み合わせるとブルーが、シアンとイエローの組み合わせならグリーンが、マゼンダとイエローの組み合わせならレッドが再現されます。明るさのコントロールは、インク量の吐出量や黒の加色で調整します。
5色型、6色型インクジェットプリンターは、4色型の シアン / マゼンダ / イエロー / ブラックの4色に、例えばグレーや、ライトシアン、ライトマゼンダといった中間色を追加することで写真などの色を自然に、きれいに再現するように工夫されたものですが、基本的な考え方は4色型と変わりません。
各染料インクの光吸収スペクトル
光の色は、その光の発光スペクトルで整理すると理解しやすくなります。全ての光が等しく光っている場合が白、逆にすべてが消えている場合が黒になります。そして特定の光だけが光っている場合が、そのスペクトルによっていろんな色として目に映ります。
インクは特定の光を吸収することで、吸収されず反射( または透過 )された光のスペクトルを変え、人の目に色として表現しています。ちなみにインクが吸収した色と、結果として人の目に見える色の関係を補色と言います。
それぞれのインクの吸収スペクトルを調べてみました。するとインクの吐出量によって光の吸収量が変わりますが、吸収スペクトルの形はほとんど変化していません。つまりこの吸収スペクトルの形が、このインクの特性ということになります。
ちなみに、インクの吐出量が2倍になっても、吸収率は2倍にはなりません。光の吸収はランベルト・ベールの法則に従うためです。詳しく知りたい方は個別にお問い合わせ下さいね。
ブルー / レッド / グリーン の光吸収スペクトル
次に、2種類のインクを混ぜて再現する、ブルー / レッド / グリーン の吸収スペクトルはどうなるでしょうか?答えは単純で、シアンとマゼンダを足し合わせて表現するブルーの吸収スペクトルは、そのままシアンとマゼンダの吸収スペクトルを足し合わせた形になっています。シアンとイエローを足し合わせて表現するレッドも、マゼンダとイエローを足し合わせて表現するグリーンも同様です。結局どんな色であっても、色彩を決める3色のインクをどれくらい吐出したかがわかれば、表現される色の吸収スペクトルが単純に決まることになります。
色( インク )の日射吸収率を測る
ここからが本題です。色の吸収スペクトルがわかりましたので、今度は JIS A5759 の計算方法に従って日射吸収率を測ってみましょう。
日射吸収率の計算方法は、実は意外と簡単です。すでに評価したい色の吸収スペクトルがわかっていますので、各波長の吸収率に、太陽光に含まれているそれぞれの波長の日射量の比率( これを重価係数と言います )を掛け算してから、すべてを積分すれば求められます。
シアンインクで吐出100%の場合で、具体的に見てみましょう。右のグラフは、シアンインクの吸収スペクトルと、日射熱の重価係数を重ねたグラフになります。ちなみに、重価係数を全部足し算するとちょうど ” 1 ” になるように調整されています。
シアンの場合、大きな吸収が確認されているのは、340nmと560nmの2か所で、それぞれの吸収率は53%と64%になります。逆に日射熱の重価係数が最大となるのは470nmですが、この波長の吸収率は32%しかありません。
次に重価係数を見てみると、340nm、470nm、560nmの重価係数はそれぞれ、0.000438、0.001618、0.001559 と決められていますので、それぞれの波長の吸収率と重価係数を掛け合わせると、340nmの日射吸収率は0.023%、470nmで0.052%、560nmで0.100% と計算されます。あとはこの計算を 300nm~2500nm まで繰り返して、最後に全部足し算すれば求められます。ちなみに、シアンインクで100%出力した場合の日射吸収率は、計算の結果19%になることがわかりました。
ここで注目してほしいのは、波長によって重価係数が大きく変わる以上、吸収率の大小だけでなく、吸収スペクトルの ” 形 ” も日射吸収率に大きな影響を与えます。簡単に言えば、同じ吸収率でも、300nm~400nm の紫外光を吸収する場合では日射吸収率に大きな影響を与えませんが、450nm~550nm の可視光を吸収する場合なら最終的な日射吸収率が大きくなってくるということになります。
実際に測定した、各色の日射吸収率を比較してみましょう。まず1種類のインクで表現されたマゼンダ、イエロー、シアンの3色の日射吸収率は、2種類のインクで表現されたグリーン、レッド、ブルーの3色の日射吸収率よりも総じて低い傾向にあります。その1種類のインクでも 450nm~550nm の吸収が最も少なそうなマゼンダが、やはりその日射吸収率も一番低く、そのあたりで大きな吸収をもつシアンが、その日射吸収率も一番高い傾向にあります。2種類のインクを使っているその他の3色でも同じ傾向で、450nm~550nm の吸収が最も少なそうなグリーンが、やはりその日射吸収率も一番低い傾向にあります。
この様に、色によって日射吸収率は違うわけですが、実は色の種類で単純に順列が決まるわけではなさそうです。それぞれのインクの吸収スペクトルをよく確認してみないといけないので、おそらく、プリンターの種類が変わると数字や順列が変わってしまうかもしれませんね。
インクの吐出量と光の吸収率が単純に比例しないことは先ほどご説明した通りですが、ここに波長によって大きく変動する日射熱の重価係数を掛け算してしまうと、インクの吐出量を増やすと日射吸収率がどんなふうに変化するのか、全く予想がつきません。そこで最後に、各色の日射吸収率がインクの吐出量でどう変わるかについても確認しました。結果は右の通りです。
結果は案外単純でして、やや上に凸に湾曲しているようですが、色の日射吸収率は、その吐出量に対してほぼ比例的に増加するようです。
以上の結果で、色彩をつかさどるシアン、マゼンダ、イエロー3種類のインクの日射吸収率が大体把握できるようになりました。